『わたしたちの田村くん』(電撃文庫)

 手元に本が無いので、タイトルの表記はうろ覚えだし、作者の名前に至っては一字たりとも思いだせん。悪いか? ああん?


 表紙イラストがいかにも最近の電撃な代物だったり、電波とツンデレの二人のヒロインの人気投票がネット上で行われたりしていたので、てっきり「どうでもいい主人公が何の理由もなく複数の女子に好かれて取り合いされてオタオタしつつ、最後にはちょっとだけ男気見せてハーレムがより強固なものとなって、めでたし、めでたし。めでたくねえよ馬鹿」な、脳天気ラブコメかと思っていたら全然違った(最近そんなんばっか)。


 タイトルに偽りなし。この小説の核は間違いなく主人公の「田村くん」にある。インドア系でありながら、殆ど狂犬のように(褒め言葉)アグレッシブなヒロインへのアプローチ。モノローグでの頭のおかしさ(褒め言葉)も申し分ない。そして、各話終盤での見事な「トラウマ・ブレイカー」ぶりは、上条当麻にも全然ひけを取っていない。萌える。萌えるよこの主人公。


 いい加減ラノベの読者と言えども、感情移入しやすい地味で気弱な没個性主人公に飽きがきているのかもしれない。それから、変に醒めた振りをした底の浅い露悪趣味な作風にも。非巻き込まれ型主人公! 突き抜けるハッピーエンド! それらの何が悪いというのか。少なくともライトノベルという分野においては、何の問題もないはずだ。現実が奇麗事で済まされないなら、物語の中でだけでもそれを実現させようという前向きな(これを後ろ向きと取るような人間は、二度とこんな日記見に来なくていい)意志こそが、ライトノベル(正しい小説)の最大の存在意義だったのではないか。その意味においては間違いなく、ファックオフ桜庭一樹! とっとと一般文芸とやらの世界に行っちまえ!


 名前は忘れたけど、作者が女性だったことは覚えている。喬林知に続く「真に恐るべき女性作家」だと思う。プロフィールに、以前はPCゲーム製作会社に勤めていたと書いていたが、それってもしかして「鍵」? 作風が似てる気がするが。