『大沢さんに好かれたい。』(桑島由一/角川スニーカー文庫)

 作者のバランス感覚の良さは多分、(昔はともかく現在は)オタク文化についての情報収集をしていないところにその理由があるのではないか。いや、今でも毎週末には秋葉可通いを欠かさないような生活を行っている可能性だってもちろんあるのだが、少なくとも作品からはそういう臭いが殆どしない。
 一般化、抽象化は、下手な作者が無闇に行うと薄っぺらい(あるいはオッサン臭い)だけの小説になってしまうのだが、この作者は奇跡的なバランスでそれを回避して、普遍性の強い物語を書き上げることに成功している。刻々と細分化されて矮小化してゆく(それ自体は必ずしも悪いことではないが)ライトノベル界において、これははっきりと価値のあることだ。本人はそんなつもりは毛ほどもないと思うが、実は児童文学に近いスタンスなのかもしれない。
 続編が存在することだけが唯一の不満。それを覆すような出来だといいのだが。