『乱れからくり』(泡坂妻夫/創元推理文庫)

 最初の被害者は隕石が直撃して死亡! それが単なる装飾ではなく、ちゃんとした伏線になっている。つまり、他はともかくこれに限っては純然たる事故であったということが、後々に意味を持ってくるわけですね。ダイイングメッセージの意味はすぐ分かったのに、トリック自体が分からなかったのが悔しい。直前にものすげえ直接的なヒントがあったのになあ。
 77、8年の作品なんだが、やっぱり古くは見えない。そりゃあ、しょうもない一目惚れとか、未亡人と地方に逃亡して旅館でまぐわいとか、そういうあからさまに俗っぽい要素も幾らかはあるが、それでも最近の三十代、四十代の作家が書いている文章に比べれば、こっちの方がよっぽど洗練されている。風化しないための工夫が特に施されているわけではないのに、妙に普遍的というか。米澤穂信がこの作家を好きだというのは、ミステリ的な部分は勿論だが、こういう文体的なことも含めてのことなんだろう。分かる分かる。