『ロクメンダイス、』(中村九郎/富士見ミステリー文庫)

 決して完成度は高くない。文体は不安定だし、作中で頻繁に繰り返される言葉遊びは垢抜けないし、そもそも「恋をしなければ死んでしまう少年と恋をしてはいけない少女」という設定だけで、人によってはもう完全に読む気を無くすだろう。

 しかし、それでもどこか憎めない作品。どうしてもこれを全否定する気にはなれない。「全体から漂う強烈な『ひきこもり感』に引き寄せられているだけだろう」と言われれば、それは確かにそうだと認めざるをえないが、それだけでもないような気もする。こういう変なものを拾い上げてくれる受け皿となっているなら、富士ミスも捨てたもんじゃないと思える。