『銀の檻を溶かして 薬屋探偵妖奇談』(高里椎奈/講談社ノベルス)

 メフィスト賞受賞作ではあるが、ミステリとしてはハナっからあまり期待していなかったし、決定的な矛盾があるとか灯油かけて燃やしたくなるようなトンデモトリックだとかいうこともなかったので、その辺の感想については省く。まあ良くも悪くも、そこそこ、それなり、というところ。そう言えば一つ思い出したが、とある感想サイトでこの作品について「なにしろ妖怪が探偵なのだから、まともなミステリになる筈がありません(笑)」とか書いてたのを読んだ時には、こいつは脳がおかしいのではないかと思った。探偵が人外の存在であるという設定は、本格ミステリであるための決定的障害にはならないし、大体この作品で探偵役は妖怪らしいこと何一つしてねえだろうが。
 問題は、文庫版の帯にも大書されていた、そして俺がこれを読もうと思うきっかけになった「キャラ萌え」、或いは「萌えキャラ」について。率直に言わせてもらうが、これって萌えるのか?
 ひどく個人的な意見を言わせてもらうが、女性作者が萌え(男)キャラを書く場合、あらゆる男性読者が多少なりとも反感を抱くくらいに、煩悩全開でカッコ良く描いた方が絶対にいい。そうでなくては男性だけでなく女性の読者にも、単なる凡庸なキャラクターとしての印象しか残せない。そういう意味では、この作品のメイン・キャラクター三人組は、どうにもおとなし過ぎる。底が浅いというか。頻繁に繰り返される垢抜けない掛け合いなどは、ムカツク以前に生温かい目で見守るしかない。地の文の始終弛緩したような物言いもそれを助長している。やっぱりメフィスト賞って、この辺(まあ、ライトノベルっぽいもの、とか)のセンスを判断する目が少々弱い気が。
 一作目なので断定は出来ないが(シリーズ既刊は12作!)、この調子のまんま延々と続くのだとすると、少々ツラいものがある。桜井京介シリーズ読もうかな。