『名探偵 木更津悠也』(麻耶雄高/光文社 カッパ・ノベルス)

 『翼ある闇』を読んだ人間には、このタイトルもカバー折り返しに書かれた香月(作者)の前書きも、麻耶お得意の皮肉にしか見えないことだろう。しかし、必ずしもそうではないということが、実際に読んでみると納得できるはずだ。木更津はたしかに名探偵だった。
 麻耶雄高のもう一人のシリーズ探偵であるメルカトル鮎と推理作家の美袋三条のコンビは結局のところ、唯我独尊な天才とそれに翻弄される凡人という単純な関係でしかなかったが、木更津悠也と香月実朝(やはり推理作家)の場合には、問題はもう少し複雑になっている。この二人の関係は、相補的なものだ。相補的というと、どこか穏やかなものを想像しがちだが、それとは全く逆に二人の間には常に緊張感が満ちている。お互いがお互いを絶対に必要としながら、その事実こそを憎悪しているかのようにも見える。かつてのような、分かりやすい悪意ではなく、こういう「どうしようもなさ」を描く方向に、麻耶雄高の意識が変化してきたのかもしれない。まあ、最終的に何を訴えたいかと言えば「木更津×香月? 香月×木更津? ハッ! というこのスタンス(リバシしか有り得ねえ)」というクズ人間に相応しい妄言なんだが。
 最後の一篇に、一部『神様ゲーム』と重複するネタが。現象として似ているだけだけど。