『屋根裏の二處女』(吉屋信子/国書刊行会)

 イエーイ、百合! 百合! 
 という内容かと思ってたらこれが。いや、全く違うかというとそんなことは勿論なく、結末を見て「ああ、ウテナウテナ」と思う(順番が逆です)くらいにはリリィスメルが充満してるのだが。解説を読むと、一般的には作者のカミングアウト小説として認識されている代物らしいし。
 しかし、そんなことよりむしろ気になったのは主人公の「ダメ描写」。少女漫画によくある「何の取り柄もない(と本人は認識している)が、周囲の人間はその本質を見抜いて高く評価している」系のキャラ(『マリみて』の祐巳とか)ではなく、かなり本気でダメ人間。最終的に寮を追い出される理由が「自分の中で勝手に嫉妬の炎を燃え上がらせた挙句、全く無関係の人間をぶん殴った」ことだったりするから、普通の人間はかけらも同情できないだろう。大観衆を妄想しながら一人で下手くそなピアノを弾くシーンなんて、佐藤友哉の小説に出てきても全然おかしくないくらいにどん底感に溢れてて、ちょっと泣けてくる。いやあ、こんなに共感が持てる女性主人公は初めてだ。
 主人公とは別の意味で(つまり、まっとうな方向で)魅力的だったのが工藤さん。喘息の薬を飲んでいるせいで(?)言葉がどもる癖があるのだが、中身の方はなんとも凛々しい。分かりやすく『マリみて』で喩えると「蔦子さん+初代白薔薇様÷2」というところ。この表現だけで、どれほど萌える(むしろ燃える)のか分かってもらえるといいのだが。主人公カップルなんかより、この人に幸せになってほしかったのに。