『19ボックス 新みすてり創世記』(清涼院流水/講談社ノベルス)

 ははあ、この作品あたりから例の「毒者」発言が始まったのか。


 ネット書評等において、ライトノベルの文章の特徴として「過剰に説明的」である点が挙げられることがままあるわけだが、説明的であることにかけては一連の「流水大説」の右に出るものはないだろうと思われる。「省略して分からせる」という、日本語を使用している人間なら誰もが多かれ少なかれ自然に用いている手法を、母親の胎内で忘却してきたかのようなくだくだしい文章。全編、言わずもがなのことばかりで占められていると言ってもいい。これは流水自身の発言とは全く正反対に、彼が自分の読者の読解力のレベルを極めて低く見積もっていることの証拠なのではないだろうか。言い換えれば、自作が誤読されるかもしれない恐怖に耐えられなかったということだ。(念のために言っておくと、饒舌な文体の作家の全てが説明的なわけではない)


 それでもJDCシリーズに限って言えば、あのほぼ超人と大事件しか存在しない世界観と大仰すぎる文体はうまく噛み合っている、と言えなくもない(かなり無理をすればだが)。しかしこの『19ボックス』では、登場するキャラクターが比較的普通人に近い人間ばかりなため、流水文の持つ臭みが隠しようもなく顕れており、読み進めるのが苦痛だった。四編目の『切腹探偵幻の事件』が一番読みやすかったのは、作品の雰囲気がJDCと最も近かったことと無関係ではないのだろう。


 最後に。「四つの中篇を読み終えると、一つの長篇が現われる」という煽り文句は、限りなく大嘘に近いので注意。こんなもんに二時間費すくらいなら『やみなべの陰謀』(田中哲弥電撃文庫)読んどけ。